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2006年7月11日 (火)

連載少年冒険読みもの「山の中」第2回

 初めて会ったとき、オジさんは図書館の児童書コーナーにいた。ぼくはポプラ社の『ズッコケ三人組』の、まだ読んでいないのを探しに来たのだった。
「きみも『ズッコケ』読むの?」とオジさんは話しかけてきた。
「『ズッコケ』では何が好き? オジさんは『財宝調査隊』と『恐怖体験』が好きだ。あと『探検隊』とか『心霊学入門』とか、初期の冒険ものがいいなあ」
 あやしい危ない人なのか、ただの気のいいオッサンなのか。ぼくも困ったよ。

 昼間の図書館にはヒマそうな大人の男の人がたくさんいる。特に雑誌の閲覧コーナーは、定年をとっくに過ぎたような、おじさん、というよりおじいさんがゴロゴロしている。
 だけどこのオジさんは、まだ五十歳前じゃないかな? いわゆる働き盛りの年ごろだと思うけど、いったいなにやってる人なの?
 次の日には図書館の前のベンチの所で会った。ぼくが、まだこのまちに引っ越してきたばかりだと言ったら、オジさんはこのまちの人口とか学校の数とか、山や川のこととかをいろいろ教えてくれた。

 家でかあさんと話していてビックリしたよ。あのオジさんの名前を言ったら、同級生なんだって、かあさんの小学校、中学校のときの。
「あの子、勉強できたのよ。学級委員だった。たしか地元のローカル新聞社のデスクをしてたそうだけど、会社を辞めちゃって、フリーターみたいなことやってるらしいわ」
 へえ。かあさんと同い年なら四十六歳か四十七歳だ。奥さんも、大学生になった子どももいるという、中年フリーターだってさ。
 かあさんも、都落ち―いや郷里へ帰って、昔の友達とお昼を食べに行ったりするうち、いろいろな情報が耳に入るらしい。
「まあ、うちの話も、いろいろ広まってるんだろうけどね」
 なるほど。それが田舎暮らしというものか。

 その元新聞社デスクのオジさんが、いつもの図書館前のベンチで切り出した「死体捜し」の話というのはこうだ。

 このまちは関東平野の端っこにあって、北にはすぐ山地が迫っている。
 この山並みは、栃木県の足尾や日光のほうまで、ずーっとつながっているそうだ。
 そのいちばん手前に、このまちのどこからでも見える雷電山という山がある。標高五百㍍くらいの、誰でも登れる里山だ(もちろんぼくはまだ登ったことはないけど)。
 中高年の山歩きブームとかで、毎日登る人もたくさんいて、「雷電山友の会」という愛好会もあるそうだ。

 その友の会の会員でもある七十六歳のおじいさんが行方不明になったのが、一週間前のこと。新聞にも顔写真つきの記事が出ていた。
 新聞によると、おじいさんはいつも一人で雷電山に登り、山頂から北へ尾根伝いに約四㌔離れた城沢峠まで歩き、そこからまた二㌔歩いて下山して、市営バスで帰ってくるのを日課にしていた、という(オジさんもこのコースは何度か歩いたことがあるんだって)。
 老人としてはかなりの体力だな。
 市営バスは、七十歳以上だと無料パスが使えるんだ。

 ところがその日、おじいさんは帰らなかった。
 翌日、家族が捜索願を出した。
 それから一週間、警察も消防団有志も、友の会の仲間たちも山に入って捜したけど、見つからない。持っていた荷物も落ちてないんだって。

 この行方不明事件は学校でも話題になっていた。
「神隠しだ」とか古臭いことを言うヤツもいたし、「うちのオヤジが言ってたけど、ホントはとっくに下山してて、どっかに隠れてるんじゃねえの?」とか無責任な推理をするヤツもいた。

(つづく)

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