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2006年8月28日 (月)

連載少年冒険読みもの「山の中」第8回

 そのときだ。
 谷川の向こうの林の中に、人が立っている姿が見えた――ような気がした。

 大人だ、と思う。
 オジさんか? あんな遠い所まで下りちゃったのか? 
 どうやって谷川を越えたんだろ?

 ――いや、違う。オジさんじゃない。

 あれは、新聞に載った写真で見たことのある顔――行方不明のあの、おじいさんじゃないか?
「おっ、おっ」
 ぼくは声にならない声を出しかけた。おーい、と叫ぼうとしたんだ。

 でもその瞬間、髪の毛が逆立つような恐怖に襲われた。

 あのおじいさんは行方不明になって、十日もたって、無傷で生きているはずはないんだ。
 だからぼくたちは死体を捜しに来たんじゃないか。

 生きているはずのないおじいさんが、ぼーっとした目でぼくのほうを見た――ような気がした。

「わっ、わああ!」
 ぼくは山の上のほうへ駆けだした。
 大きな岩場にふさがれていたが、わずかな岩のすき間を見つけて、ぼくは必死でよじ登った。手のひらを少しすりむいたけど、もう痛さも感じない。手袋をしておけばよかったなと、頭の中でちらっとは思ったけど。

 とにかく高いほうへ行かなくちゃ。
 尾根道はまだか。

 あわててつまずいた。
 布のようなものに足を取られたんだ。
 松の木の根元に両方のひざをぶつけた。今度は思いきり痛かった。だれだ、こんな所に洋服を捨てたヤツは!

「うーん」と痛みをこらえながら目の前を見たら、変なものが転がっていた。

 白っぽくて丸いもの――テレビで見たことが…そうだ、上野の科学博物館でも見たことがある――ヅガイコツ? 人間の頭がい骨がなんでこんな所に?

 ぼくはもう怖いのを通り越して、不思議に冷静な気持ちになってきた。
 あの世のおじいさんより、この世の頭がい骨のほうが、まだマシだ。ちくしょう。

 まわりにはほかの骨らしいもの――腕なのか、脚なのか――も散らばっている。バラバラ白骨死体?

 あのおじいさんの死体なのか? 
 いや、まだ白骨になるのは早すぎるだろう、たぶん。
 それにさっきのボロボロの布切れは、男の人の背広のようだ。山歩きのおじいさんとはぜんぜん支度が違う。
 ぼくは別の人の死体を見つけてしまったのか?

 頭の中がぐるぐる回転して、この事態を整理しようとしている。
 どっちにしろ、事件だぞ、こりゃあ。

(つづく)

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