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2006年8月 8日 (火)

連載少年冒険読みもの「山の中」第6回

 ここが黒神山!?
 そうだ、あのバラバラに壊れた標識に、確か「黒神山」って書いてあったぞ。

「あの標識を壊したのは、たぶんクマだな」
 えっ! またオジさんったら、子どもを怖がらせようと思って…。
「よく見てごらん」
 ぼくとヤマザワはその標識の、バラバラになった木材の上にしゃがみこんで見てみた。
 細かい裂け目に、獣毛というのか、黒くて短くて硬そうな毛が何本も挟まっている。
 ホントに? クマの仕業なのか?
「ヤツらはなぜか、山の中に人間がつくった人工物を憎むらしいんだ」
 やばいよ。素手で木材をこんなにバラバラにするなんて。人間わざじゃないよ。あ、クマわざか。

 ヤマザワもさすがにビビッたのか、と思ったら突然立ち上がった。
「こんなハイキングコースをいくら歩いてたって、死体なんか見つからねえよ。警察や消防団がもうさんざん調べたんだろ」
 そう言うと、尾根の登山道から飛び下りて、右の斜面の林の中へ入っていった。
「あっ、だめだよヤマザワくん。一人で勝手に行っちゃ。危ないよ、こらっ!」
 オジさんがヤマザワを止めようとあとを追う。
「ヨースケくんはここにいて。ぜったい動いちゃだめだよ」
 ええ? どーしたらいいんだ。ヤマザワのバカ!

 二人が下りていった林の中は見通しが悪い。ヤマザワと、それを追うオジさんの足音が聞こえる。落ちた枝をパキパキと踏み割る音だ。

 すぐにそれも聞こえなくなった。

 突然、一人残されたぼく。
 静かすぎるくらい静かになった。

 いや、鳥の声と、虫がジージー鳴く音だけは聞こえる。
 なんていう鳥か、なんの虫かはぼくには分からないけど。

 高い木の上のほうで、枝がこすれあう音がする。
 風があるんだ。
 木立のあいだに見える空は、ほとんど雲に覆われている。
 天気が悪くなるのかなあ。

 十分たった。
 いや、ぼくは時計を持っていないので、ホントは五分かもしれないし十五分かもしれない。
 山の中に一人でいたら、時間の長さなんて分からなくなっちゃうよ。

 二人は林の中を下りていったきりだ。
 どうしたんだろう?
 なにかあったのか?

 いても立ってもいられなくなって、ぼくも尾根の登山道から林の中へ飛び下りてみた。
 すると、道とはいえないような道のような、うっすらヤブをかき分けたスジあとがある。こういうのをけもの道というのだろう。
 二人はここを歩いていったんだ。

 よし、ぼくも行ってみよう。

「おーい」
 十㍍ごとに立ち止まって声を出してみる。
「おーい。オジさーん。ヤマザワあー」

 けもの道は林の中をどんどん下へ向かっていく。あまり行きすぎると戻れなくなりそうだけど、オジさんとヤマザワのいる気配はまだない。
 いったいどこまで行ったんだよ。

(つづく)

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