« 浮世風呂(1) | トップページ | こ、これは…ドッキリ »

2006年9月 4日 (月)

連載少年冒険読みもの「山の中」第9回

「おーい、ヨースケくーん」
「おーい」

 上のほうからオジさんとヤマザワの声がする。

「だいじょうぶか」
「ケガないか」

 ぼくはもう、尾根の登山道から四、五十㍍の所まで来ていたらしい。

 二人は下りてきて、白骨死体にびっくりしている。

「こりゃあ、首つりだな。ヨースケくん、えらいもの見つけたな」
オジさんは、松の枝からぶら下がっているロープを見ている。
「あのロープの結び目の所、ほら、頚椎――首の骨がひとつ残って、挟まってるだろう。とにかく警察に知らせなくちゃ」

 オジさんは事件記者をしていた若いころ、警察署のガレージでこんなバラバラ白骨死体を見たことがあるという。現場から運んだ骨を、警官たちが組み合わせるのだそうだ。

 オジさんのケータイの電波が「圏外」なので、ぼくたちはひとつ手前の山のてっぺんまで戻った。

 オジさんが警察に電話して事情を説明している。
 だけど警官がここまで登ってくるのには、ずいぶん時間がかかるだろう。
 仕方ないので、ぼくたちは休みながらいろいろな話をした。
 持ってきたお弁当やお菓子も食べながら。

 ヤマザワとオジさんが尾根道から下りていって、なぜしばらく戻らなかったかというと――
「いやあ、オレ、急におなかが痛くなっちゃってさ。キジうちしてたんだ」とヤマザワ。
「紙がないから葉っぱでふいたら、ヒリヒリするよ」
 なんてヤツだ。

 いつも元気なオジさんもちょっと疲れた様子だ。
「ヨースケくんのおかあさんには謝らなくちゃならないな。危ないことはさせないと約束したのに…」

 でも、それからまた講釈が始まった。

「あの白骨死体のことだけどね。じつは自殺というのはものすごく多いんだ。不幸な死に方というので、みんながよく知っているのは交通事故だね。日本では毎年、交通事故で約七千人の人が死ぬ。ところが自殺する人はその四倍、三万人以上いるんだ。毎年毎年だよ」
 とすると一日平均で八十人以上か。たしかにすごいな。
 オジさんによると、その自殺のほとんどは(有名人や特別な死に方を除いて)新聞記事にもならないそうだ。

 ぼくは、いまは骨だけになってしまった、あの背広の男の人のことを思った。

 どんな人だったんだろう。
 なんで死んだんだろう。
 奥さんや子どもはいなかったのかな。

 大人になって生きていくってことは、なんだかたいへんそうだなあ。

 結局、行方不明のおじいさんのことは何の手がかりもなかったなあ――と話が進みかけたところで、ぼくはあの谷川で見た(と思う)おじいさんの話をするべきかどうか少し迷ったんだ。
 でも黙っていられなかった。
 一人で抱え込んでいるのも怖かったしね。

 ぼくの話に二人は少し目を丸くしていた。
「おまえ、サルでも見たんだろ。それとも、ユ、ユーレイか!」とヤマザワ。
 オジさんは「うーむ」と考え込んでいた。
「そんなことがあるのかなあ。いや、そういう超自然的なこともあるかもしれないなあ」

(つづく)

|

« 浮世風呂(1) | トップページ | こ、これは…ドッキリ »

少年冒険読みもの」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 連載少年冒険読みもの「山の中」第9回:

« 浮世風呂(1) | トップページ | こ、これは…ドッキリ »